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コミュかる・こぼれ話

「コミュかる」は、「コミュニケーション」と「カルチャー」を用いた造語で、2012年に創刊した杉並区の文化・芸術情報紙です(年4回発行)。区内での公演・チケット情報や文化人のインタビューをご紹介しています。
本コーナーでは紙面には掲載しきれなかった写真や「こぼれ話」を掲載しています。

浪曲師 玉川太福さん(たまがわだいふく)

2022年9月21日発行「コミュかるVOL.60」

Q1: 浪曲のこれまでの歩みについて教えてください。

浪曲は何もないところからある日突然生まれたのではなく、江戸時代以前からあった様々な語り芸が結集して今の浪曲の形になっています。昔は門付け(かどづけ)といって、家々を回ってためになるお話や祝い言を聞かせる大道芸でした。それが徐々に話芸に達者な芸人に人が集まるようになってきまして、葦簀(よしず)で囲まれた場所へ木戸銭(入場料)を払って見に行くという形に変わっていきました。人気が出てくると「自分から訪ねて行く」、から「お客さんに来てもらう」に変わっていくんですね。そこからさらに人気が出てくると、今度は寄席という常設の小屋に進出します。

落語や講談は既に寄席の演芸でしたが、浪曲は一番遅かったんです。しかし浪曲には語りやお芝居の他に音楽が入っています。音楽は普遍的で大衆的な要素が強いものですから、どんどんと人気が出てきて、そのうち落語や講談を追い越していき、寄席の枠を超えて1,000人、2,000人規模の大劇場でおこなう芸能になっていきました。同時に、明治の終わり頃に登場したレコードの初期の頃から浪花節がレコード化されており、ラジオやレコードなどから聴いて楽しむ娯楽として発展していきました。劇場のない地域では、こうした集会所や映画館、大きなお屋敷に近所の方を集めて口演したという話も聞いたことがあります。

浪曲はその時代の大衆に寄り添って発展してきたものです。昭和の初め頃は全国に3,000人くらいの浪曲師がいました。もちろん、江戸落語や上方落語のように東京と大阪が芸の拠点ではありますが、訛っていても声と節がよければいい、という芸能でもあるので、九州だけで活動している浪曲師もいれば、北海道だけで活動している浪曲師もたくさんいたようです。というように、お話の内容も語りの形態も自由度が高かったというところが多くの人に受け入れられたのでしょうね。

Q2: 浪曲を通じてお子さん達に伝えていきたいことなどありますか?

浪曲の全盛期、ラジオで一日中流れていた頃は、小学生低学年の子たちまで流行歌のごとく歌ったり、語ったりしていたそうです。今でも絶対面白いから聴いてくれ!なんてことはいいませんが(笑)。浪曲というものがあって、今は面白さがわからないかもしれないけど、しばらく年月が経ってから再び聴いてみると、「え、こんなにわかりやすくて面白かったの?」って、印象ががらりと変わることもあるよ、と言いたいですね。

かわいそうなことですが、コロナ禍にあって触れあったり、交流したりすることが禁止。勉強や趣味など はタブレットなどデジタル機器を通じて体験することが多くなっている現代において、浪曲や演芸の醍醐味は、お客さんと演者が空間を共有して、その場でお客さんが感じたことが演者に還元される、演者が発したことばでお客さんの感情が揺さぶられて、そこで空気が立ち上がって、さらに演者が反応してというように、一体感、臨場感が一番大事なんですよね。自分がそこに参加することで、一緒に場をつくり上げる一因になっている、という体験をしてもらいたいですね。

Q3: 太福さんは様々なジャンルの方とコラボレーションをされていますが今後の展望はありますか?

浪曲師と曲師を合わせて100人くらいいて、その周りに何千人のお客様がいらっしゃるかわかりませんが、マーケットは限られていますよね。そのお客様だけを向いてやっていても広がりがないんですね。そこに「浪曲って何だい?」というお客様に来ていただいて、初めてチャンスが生まれるわけです。浪曲に触れていただき、誰でも楽しめる大衆演芸なんだと知っていただくことにやりがいを感じつつ、でもプレッシャーも感じています。初めて浪曲を聴く方がそこでつまらないと思えば、浪曲全体がつまらない、もう二度と浪曲は聴かない、となってしまいますからね。でもそうした機会をいただけることには感謝しています。

今、講談が神田伯山さんの活躍でどんどん広がっていて、漫画になったり、絵本になったり、より多くの方に触れるような広がりを見せていますので、浪曲もそうなっていければいいなと思いますね。

「コミュかる」は以下の杉並区役所公式ホームページでお読みいただけます。
https://www.city.suginami.tokyo.jp/kusei/bunka/johoshi/1073859.html外部リンク